観自在寺から柏坂を越え、津島町を経由して宇和島へ。標高500m弱の険しい柏坂と、もう一つの遍路道を越え、約40kmを歩いて区切り打ちの最終地点に到着。翌日は宇和島の龍光院を参拝し、8月8日から始まった約280kmの歩き遍路を無事に終えた。
行程表
- 5:30出発
- 観自在寺 通夜堂
- 柏坂
- 津島町
- 道の駅 津島熱田温泉
- 19:00宇和島
ビジネスホテル

朝の準備
8月15日、晴れ。
昨日は延光寺から松尾峠を越え、愛媛県に入って観自在寺の通夜堂に宿泊した。
歩いた距離は約23km。自分としては少し短めだったこともあり、朝の体調はいつもより良い。
早朝、通夜堂を掃除してから大師堂へ向かい、お礼を呟く。
そして、観自在寺を出発した。
区切り打ちの最終日
今日は、今回の区切り打ちの実質的な最終日だ。
明日の朝一番の電車で地元へ帰る予定になっている。
そういえば、もう4日間も風呂に入っていない。
最終日くらいはホテルに泊まって、きれいさっぱりして帰りたい。
電車のアクセスが良く、宿泊施設も多い宇和島を目指すことにした。
観自在寺から次の札所、龍光寺までは約50km。
かなり長い区間だ。
途中には愛南町、柏、津島町など、宿泊や休憩に利用しやすい町がいくつかある。
宇和島はその中でも特に大きな町だが、観自在寺から約40kmもある。
しかも途中には、柏坂という難所も待ち構えている。
通し打ちなら少し無理のある工程だと思う。
しかし今回は区切り打ちの最終日。
明日のことを考えなくていいので、思い切って宇和島まで歩くことにした。
こうした自由な工程を組めるのは、区切り打ちの魅力だと思う。
柏坂へ
観自在寺からしばらくは、国道56号線を北西へ進む。
伊予の海岸から少し離れた山の中を通る道は静かで、景色も良い。
2時間ほど歩くと、次第に視界が開けて海が見えてきた。
柏地区だ。
小さな湾にはほとんど波がなく、数隻の漁船が静かに停泊している。
ここは、昔から続く遍路道「柏坂」の登り口でもある。
柏坂は愛南町と宇和島を結ぶ、標高500m弱の険しい遍路道だ。
途中にはお遍路さん向けの宿泊施設もあり、前日に柏に泊まって、体調を整えてから柏坂に挑む人も多いという。
コンビニもあるので、柏坂を越える前に必要な食料や飲み物を調達しておくと安心だ。
もちろん、体力に不安がある場合は、そのまま国道56号線を進むこともできる。
自分の体力や旅のスタイルに合わせて道を選べる。
これも歩き遍路の面白いところだと思う。
私は、昔ながらの遍路道を歩いてみたかったので、柏坂を選んだ。
昔ながらの遍路道、柏坂
柏坂の登山口は、案内板に従って柏地区の中央を流れる川を上流へ進むと見つかった。
登り始めると、いきなり野性味のある道が続く。
約1kmほどの登りだが、ところどころ立ちはだかるような急勾配が現れる。
歩幅を小さくして、足を滑らせないよう、一歩ずつ確実に登っていく。
麓から40分ほどで、柳水大師に到着した。
ここが柏坂の最高標高地点だ。
ここから先は、なだらかな下りが続く。
柳水大師には、弘法大師が行き交う旅人のために杖を突き立て、水を湧かせたという伝説が残っている。
近くには小さなお堂も建っていた。
古くから使われてきた遍路道だからこそ、当時の面影を残す景観や歴史を感じることができる。
それにしても、昔の人は本当にすごい。
当時の遍路は、今の私が背負っている荷物よりも重い荷を背負い、わらじでこの山道を越えていたのだろう。
そう考えると、感心するしかない。
柏坂の下りに入ると、山深い道の途中に、ときどき廃屋が現れた。
かつて人が暮らしていた場所なのだろう。
限界集落の名残を思わせる、少し寂しい光景だ。
繁栄していた時代から、徐々に人がいなくなっていく。
そんな地域の歴史まで感じる、複雑な気持ちになる道だった。
津島町でお接待
柏坂を抜けると、宇和島市に入る。
最初の町が津島町だ。
湾曲した岩松川に沿って広がる町は、山々に囲まれ、見通しもよく、風光明媚な印象だった。
コンビニや飲食店もあるので、柏坂を越えた後の休憩や補給にも便利な町だ。
私もコンビニに立ち寄り、食料と飲み物を調達した。
すると、駐車場で高齢の女性から声をかけられた。
「お遍路さん、私、今日病院を退院したの」
そう言って、お茶をお接待してくださった。
ありがたく頂く。
歩いていると、こうした思いがけない出会いがある。
お遍路を続けていると、人の温かさを感じる瞬間が本当に多い。
道の駅 津島熱田温泉
津島町には、歩き遍路にとって便利な場所がもう一つある。
道の駅 津島熱田温泉だ。
私も、2回目の歩き遍路でも利用したことがある。
日帰り温泉を利用できる、珍しい道の駅で、地元の人や観光客で賑わっていた。
もちろんレストランもある。
歩き疲れたときには、温泉で汗を流して食事をするのもいいだろう。
2026年春にはリニューアルされ、さらに利用しやすくなったようだ。
もう一つの遍路道
道の駅から国道56号線を北へ進むと、松尾トンネルが現れる。
ここでも、遍路道を選ぶことができる。
ひとつは、そのまま国道を進むルート。
山の中を通るため高低差は比較的少ないが、約1.7kmもある長いトンネルを通ることになる。
一方、もうひとつは昔ながらの遍路道だ。
こちらは山を越えるため登りがあるものの、自然の中を歩けるのが魅力。
登山口はトンネル入口の左手にあり、比較的分かりやすい。
私は迷わず遍路道を選んだ。
ただし、この遍路道は採石場の近くを通るため、トラックの通行が多い。
歩く際には十分注意したほうがいい。
山を越えると、再び国道56号線に合流する。
観自在寺からここまで約30km。
宇和島市街地までは、あと約10kmだ。
柏坂を含めて二つの山を越えたことで、かなり疲れていた。
それでも、最後の力を振り絞って歩き続ける。
宇和島へ
時刻は18時。
日が傾き始めている。
日没までにはホテルに到着したい。
ホテルの予約は電話で済ませてある。
宇和島は西側を静かな湾に囲まれ、周囲を山に囲まれた、天然の要塞のような町だ。
町の中央にある小高い丘には宇和島城がそびえ、城下町らしい複雑な道の名残も感じられる。
宇和島城のある丘をぐるりと回り込むように進むと、ようやく宇和島駅が見えてきた。
時刻は19時。
辺りはすっかり暗くなっていた。
それでも、なんとかホテルに到着。
無事にチェックインすることができた。
こうして、8月8日から始まった一週間の区切り打ちが終わった。
約280kmの区切り打ち
今回、34番種間寺から宇和島まで、約280kmを歩いた。
道中では大型台風に遭遇し、立ち往生することもあった。
炎天下の足摺岬では、水場を見つけるたびに頭から水を浴び、暑さをしのいだ。
海の景色、山の景色。
一緒になったお遍路さんとの出会い。
野宿をした夜。
そして、道中でいただいた数々のお接待。
たくさんの人に助けてもらいながら、ここまで歩いてくることができた。
振り返ると、感謝の気持ちでいっぱいになる。
ホテルの部屋で鏡を見る。
肌は真っ黒に日焼けし、一回り痩せている。
一方で、太ももの付け根は以前よりがっしりして、まるで飛脚のような体つきになっていた。
歩くことに特化した体へ、少しずつ変わってきたようだ。
そして、約4日ぶりの風呂。
念入りに体を洗う。
久しぶりのエアコンが効いた部屋は、やはり快適だった。
言うまでもなく、ベッドの寝心地は野宿とは比べものにならない。
そのまま、とろけるように眠った。
翌日、帰宅前の参拝
8月16日、晴れ。
区切り打ち最終日は、宇和島駅から電車で地元へ帰る日だ。
特に時間の制約はなかったので、帰る前に少し宇和島の町を散策することにした。
実は、宇和島には四国別格二十霊場の6番札所、龍光院がある。
せっかくなので、今回の区切り打ちが無事に終わったことを、お大師様に報告するため参拝することにした。
四国別格霊場 6番龍光院
龍光院は小高い丘の上にあり、境内までは階段を上っていく。
境内からは宇和島の町を一望でき、気持ちの良い景色が広がっていた。
早朝の境内には、地元の人らしき方も散歩を兼ねて参拝に訪れている。
「おはようございます」
すれ違う人と挨拶を交わす。
こうした地元の人たちが、自分たちの町やお寺を大切にしている姿を見ると、自分も見習わなければと思う。


帰路
こうして今回の区切り打ちを終え、帰路についた。
次の区切り打ちは、年末年始。
今度は真冬の歩き遍路になる。
暑さとの戦いだった今回とは、また違った遍路旅になりそうだ。




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