8月9日、台風が接近するなか、36番青龍寺から須崎を経て安和まで約30kmを歩いた。強風と大雨で歩行も困難になり、宿泊先も見つからず、安和の直売所で野宿することに。深夜3時には台風が最接近し、テントが飛ばされそうになるほどの暴風雨に襲われた。これまで経験したことのない四国の台風の恐ろしさを身をもって知る一日となった。
行程表
- 7:00出発
- 国民宿舎土佐
- 武市半平太像
- 須崎休憩所
- 須崎
- 16:00安和
野宿

台風接近のなか、須崎を目指す
8月9日、雨。区切り打ち3回目の2日目で、全体では15日目となる。
昨日は34番種間寺から36番青龍寺まで約24kmを歩き、国民宿舎土佐に宿泊した。ホテルでゆっくり休めたおかげで、前日の疲れはほとんど残っていない。朝食を済ませ、7時にホテルを出発した。
36番青龍寺から37番岩本寺までは、約58kmの長距離区間だ。一日で歩き通すのは難しく、途中で一泊するなら須崎や久礼が便利だろう。
しかし、今日は大型の台風が四国に上陸する予報が出ていた。どこまで歩けるか分からない。身の危険を感じたら、無理をせず早めにホテルへ避難するつもりで出発した。
まずは、次の町である須崎を目指す。青龍寺から約20km、歩いて5時間ほどかかる道のりだ。道中はコンビにや飲食店が乏しいため、行動食もいつもより多めに用意しておいた。
須崎へ向かう2つのルート
須崎へ向かうルートは大きく分けて2つある。
ひとつは、そのまま県道を進む横浪スカイラインのルート。小さなアップダウンを繰り返すため、距離は短いものの、じわじわと体力を奪われる道だ。
もうひとつは、宇佐大橋を渡って宇佐湾沿いに進むルート。こちらは坂道が少ない反面、距離が少し長くなる。
今回は横浪スカイラインを通るルートを選んだ。
天候は雨が降ったり止んだりの繰り返し。空はどす黒い雲に覆われ、雲の流れる速さもいつもより早く感じられた。台風が近づいていることを肌で感じる。
横浪スカイラインの休憩スポット
出発から2時間ほど歩くと、武市半平太像が見えてきた。
武市半平太は、幕末に活躍した土佐の志士だ。高知県内には、こうした幕末の志士たちの銅像が各地に建てられている。像の近くにはトイレもあり、このルートでは貴重な休憩スポットだった。

須崎で宿泊するか、さらに歩くか
時刻は12時。須崎市街地の手前にある須崎休憩所で、雨宿りを兼ねて休憩することにした。
雨に加えて風も強くなってきた。地図を広げ、これからどこまで歩けるか考える。
ここから須崎までは約3km。さらに須崎から久礼までは約13kmある。頑張れば、日没までに久礼までたどり着けるだろうか。
少しずつ次の目標が見えてきた。

13時過ぎ、須崎市街地に到着した。コンビニや飲食店、ホテルの看板も目立ち、宿泊や買い物には困らない便利な町だ。
台風の風は、時間が経つにつれて確実に強くなっていた。ホテルを横目に、ここで宿泊するべきか迷う。
一方で、まだ日没までには時間がある。少しでも先へ進みたいという気持ちもあった。
「まだ歩けるだろう」
そう考え、須崎を通過して次の町を目指すことにした。
台風の暴風雨のなか、安和へ
しかし、状況は刻一刻と悪化していった。
須崎や久礼は土佐湾に面した海沿いの町だ。しかも、接近中の台風は、この地域に直接上陸する進路をとっていた。
本州でも大型台風を経験したことはあったが、高知の台風はそれとは比べものにならないほどの激しさだった。
風はどんどん強くなり、約10kgのバックパックを背負っていることもあって、まともに歩くことさえ難しくなってきた。
足腰には自信があったが、強風にあおられると簡単に体が持っていかれる。時折、海の様子を見ると、とんでもない大波が押し寄せていた。
もし風にあおられて海に落ちたら、命はないかもしれない。
そんな最悪の状況が頭をよぎった。
風雨に耐えながら、須崎市街地からさらに1時間以上歩き、ようやく安和の町にたどり着いた。
安和には民宿があったため、わずかな望みを託してインターホンを鳴らし、宿泊できないか尋ねてみた。しかし、残念ながら宿泊は断られてしまった。
もう、野宿するしかない。
覚悟を決め、近くで少しでも風雨をしのげる場所を探すことにした。
周辺を歩いていると、直売所を発見した。店は閉まっていたが、コンクリート製の壁と屋根があり、雨風を避けられそうだった。
今日はここで台風が過ぎるのを待つしかない。
急いでテントを設営する。雨風をしのげる場所を確保できたことで、少しだけ気持ちが落ち着いた。
座り込んで外の様子を眺めていると、風雨はさらに勢いを増していく。
「こんなに強くなるのか……」
四国の台風の恐ろしさを、身をもって感じた。
安和で迎えた台風の夜
18時頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
外の街路樹を見ると、地面に届きそうなほど大きくしなっている。もし木が倒れてこちらに飛んできたら、ただでは済まないだろう。
それ以上に怖かったのは、ここが海に近いことだった。もし高潮に襲われたら、ひとたまりもない。次々と最悪の状況が頭をよぎるが、今はただ無事を祈るしかなかった。
明日は37番岩本寺を目指す長い道のりになる。少しでも体力を回復させるため、テントの中で眠ることにした。
深夜3時、台風が最接近
深夜3時頃。台風はついに最接近し、状況は最悪のピークを迎えた。
風にあおられながら浅い眠りを続けていたが、あまりの激しさに目が覚めた。スマートフォンで雨雲レーダーを確認すると、真っ赤な渦が、ちょうど自分のいる場所に重なっていた。
風雨は想像を絶するほど激しく、槍のような横殴りの雨がテントを打ちつける。雨はテントの中にまで入り込み、寝床はびしょ濡れになってしまった。
さらに、テントが風で飛ばされそうになる。
「これはまずい!」
両手両足を使ってテントの四隅のフレームを押さえ、必死に飛ばされないよう踏ん張った。
外からは、避難を知らせるサイレンだろうか、警報音が鳴り響いている。
自分が今、絶対にいてはいけない状況にいることは分かっていた。しかし、激しい風雨のなか、外へ出て移動することもできない。
無事を祈るため、般若心経を唱えたりもした。
とにかく、今は耐えるしかない。
四国の台風の恐ろしさを、これほどまでに思い知らされるとは思わなかった。




コメント